「えっと……今から来るってこと?」
問われるままに答えてしまったけれど、今更ながら、自分の恰好が気になった。
「こんな恰好で……あー……でも、せっかく来てくれるっていうのに断るのも……」
すっぴんだし、初対面の人に人に会うような恰好でもないけれど、せめて、寝ぐせや汚れがないかくらいは確認したい。
香耶はどうしようかと迷っていたパイの皮を丸めて2口で食べきり、慌てて店の外に出た。
駅のトイレで、ざっと自分の状態を確認して、バッグに入れてたリップクリームとハンドクリームを塗ってみた。
寝ぐせもなかったし、日本を出る2日前に自分でもぎょっとしたひどいクマも消えていたけれど、こんな無防備な状態で初めての人とあうのは中学生以来かもしれない。
ばっちりメイクのモデル系美女とかが来たらどうしよう……
ビシッとスーツ姿のキャリアウーマンとか……
今からでも断ろうかとスマホを取り出して、目の前を行き交う人達が目に入った香耶は、心配性の自分にふっと自嘲気味の笑いを漏らした。
朝からウロウロしているけれど、スーツ姿の人なんてほとんど見かけないこの街で、もしそんな人が来たら、それは奇跡的な確率だと思う。