「……うん、あれだ。ミートパイだ」

思い出したのは、まだ子供の頃に食べたドーナツ屋さんのミートパイ。

あれほどトマトが強くないし、こっちのはほとんどスープに近いけれど、味は悪くない。

つまんで食べるスティック状のパイに慣れていたから不思議には思ったけれど、フランス料理とかで出るらしい、スープにパイの帽子をかぶせたような料理の類と思えば、違和感も無かった。

お腹も空いていたせいか、パクパク食べ進めるうちに、パイの上側と中身が無くなった。

残った外側のパイを食べようかどうしようかと考えていると、小さくスマホが着信音を鳴らす。

さっきと同じアドレスを確認してメールを開けば、今度は驚くほどに簡素な文章が表示された。

『今どこ?』

友達みたいな文章に、ぷっと吹き出したけれど、嫌な気持ちはしなかった。

こういう気安いやり取りにさえ、飢えていたせいかもしれない。

小さく苦笑しながら、香耶もごく短く、返事を返すことにする。

『サーキュラーキー』

『今から行きます』

すぐに帰ってきた返事に驚いていると、続けて鳴るスマホ。

『駅のどこ?』

『スマイルマークのパイの店です』

『OK』