「いきなりだけど、言ってみようかな……」

やっぱり親切そうな文章に勇気をもらって、香耶は思い切った返事を出してみることにする。

『ご連絡いただいた山本です。早速のご連絡ありがとうございます。実は私、英語が全くわからないのにオーストラリアに来ちゃって困っています。できるだけ早く案内してもらえると嬉しいのですが、ご都合はいかがでしょうか?』

無計画で無鉄砲な人間だと思われるかもしれないけれど、多分もう二度と会わない人だ。

それに、ああいうサイトでガイドをしようという人だもの、困っていると言われて邪険にはしないだろう。

うん、と自分を力づけるように頷いて、パイを食べようとして、渡されたスプーンに気づく。

「これ、どうやって……」

そろそろと周りを見回せば、ちょうど隣のテーブルでパイを食べていた年配のご夫婦がスプーンでパイから中身をすくうところを目にすることができた。

「あぶない、あぶない。日本にいる時みたいにかじっちゃうとこだったよ……」

ひとり苦笑しながら、こんがり焼かれた茶色の皮にスプーンを突き刺して中身を取り出す。

出てきたとろとろの中身を口に入れれば、あっさりめのビーフシチューのような味わいが広がった。