落ち着け落ち着け、と自分に言い聞かせながら店内の様子を窺えば、テーブルと椅子のセットが目に入った。
なるほど、と、香耶はほっと息を吐き、簡単に単語を口にした。
「ヒア」
紙ナフキンとスプーンを添えて手渡されたパイは、まだほんのりとあたたかい。
真夏にあたたかい食べ物なんて、日本にいる時は食べたいと思ったのは冷房で冷え切った時だけだったけれど、なんだか今はそのあたたかさがなんだか嬉しく思える。
ひんやり冷たい椅子に座って、あ、と忘れかけていたスマホを取り出す。
オーストラリアに来て、初めてお店で注文したものだし、食べる前に記念に撮っておきたい。
テーブルにおいたパイを捉えて画面をタップしようとして、メールの通知に気が付いた香耶は、一瞬、首をかしげ……すぐに思い出して、そのメールを開いた。
差出人は見たことのないアドレスだったけれど、最初の一文で、すぐに待っていた人からだとわかった。
『はじめまして、ルカです。ご連絡いただき、ありがとうございます』
そんな挨拶で始まった文章は、まず最初に香耶の希望日程を尋ね、今週は空いている、というような内容で続いていた。