赤地にいくつも並んだ、白のスマイルマーク。
かわいらしい店構えはパン屋さんにも似ているけれど、中に見えるショーケースはケーキ屋さんのようにも見える。
近寄って見れば、看板の文字がはっきり見えた。
「……ピ?フェイス?……顔?」
見えても読めるわけではないのが困ったところだけれど、今回はわかる単語も混ざっていたので助かった。
だけど、食べ物屋さんの名前が顔って……聞いたことないけど、どうなんだろ。
パンでもケーキでもいい、このお店なら1人でも入れる気がする!
意を決した香耶が店の中に踏み込むと、大柄な女性店員がチラッと香耶を確認するように見た。
日本では当たり前の笑顔も、いらっしゃいませ、もない。
顔立ちと体格差のせいもあって気圧されるけれど、入って悪いことはないだろう。
香耶はひけそうになる腰に力を入れるよう意識しながら、明るく照らされたガラスのショーケースの前に立つ。
中に並んでいたのは小さくて丸い、パンのようなもの。
「あー、そっか。パイか」
そして、その手のひら大のパイには看板にあったようなスマイルや、×などでかわいい顔が描かれていた。
「顔って、これのことね」