ビクッと体を強張らせ、態勢を崩した香耶に驚く様子もない灰色の鳥は、小さな丸い目を香耶に向けた。
お尻を引きずるように30センチ以上を後ずさった香耶と鳥は、そのまま見つめあう。
片方は怯えた様子で。
もう片方は、物言わぬ静かな瞳で。
ちょっと不思議そうに香耶を見つめていた鳥だったが、すぐに興味を失ったのか、その小さな黒い目は、少し先の地面へと向けられ、現れた時と同じように、音もなく去っていった。
「…………なにあれ?」
息を詰めて身を固くしていた香耶は、その鳥が尾羽のような少し大き目の羽に覆われたお尻を向けてしばらくしてから、ようやくそうつぶやいた。
「こんな人の多い場所に野生動物が出るなんて……えっ?!」
独り言の語尾が上ずってしまったのは、見回した視線のあちこちに、同じような鳥達が地面をつついているのが見えてしまったから。
さっきは、落ち込んでいたせいで気づかなかったんだろうか?
鳥達は驚くほどたくさん……香耶を含めた草の上に座っている人間と同じくらいの数がいて、こちらのことなどまるで眼中にない様子で、ちょいちょいと地面をついばんでいる。
そして驚くことに、その鳥達にうろたえているのは香耶だけで、他の人達……現地の人なんだろうか?……は、鳥など気にせずにのんびりとくつろいでいる様子だった。