ぎょっとする香耶の、すぐ目の前。
男性は女性の耳元に顔を寄せ、何事かをささやく。
そのヒゲか、唇が、小さなピアスをつけた耳たぶに触れそうなほど近い距離で……
なんと言ったのかは聞こえなかったし、聞こえたとしてもわからなかっただろうけど、きっと香耶が楽しい気分になるような内容ではないだろう。
だって、ささやかれた女性がクスクスと幸せそうに笑ったから。
きっと、それは2人の間で交わされる秘密の言葉か、甘い睦言なんだろう。
「……あー、そっか」
思わず呟いてしまった香耶を気にすることもなく、男性の長い両腕は、ほっそりした女性のお腹……ウエストを撫でるようにして回され、ごく自然な仕草で抱き寄せた。
驚きに目を見張る香耶に、女性も全く気づく様子は無く、後ろから男性に抱きしめられたまま、背中を預けて、男性を振り向くようにしてささやき返す。
これが日本人なら嫌な気持ちになったのかもしれないけれど、人種の違いと言うのは不思議なもので、まるで恋愛映画のワンシーンを目の前に見せられてるような気持ちで見入ってしまう。
あまりジロジロ見ていては失礼だろうけれど、そろそろキスくらいしちゃいそうな距離に目が離せない。