カフェに靴屋、雑貨やお土産物を売る店など、日本でよく見る観光地とは全く違うおしゃれな店々を眺めながら行けば、香耶はそれほど飽きもせず、気がつけば、正面にオペラハウスを望める広場のような空間に出ていた。
最初に目にしたときは、手のひらで隠れてしまうほどの大きさだった白い建物は、今や大型車くらいになっている。
「まだかぁ…やっぱりけっこう歩くな…」
1人つぶやく香耶の隣で、耳慣れたスマホの撮影音がした。
さりげなく横を見れば、観光客らしき女性が、少し興奮したような笑顔でオペラハウスを撮影していた。
もしかしたら、ここがきれいに見えるスポットなのかもしれない、と改めて眺めてみれば、右手には白く輝くオペラハウス。
左手には、時代を感じさせるような作りの大きな橋がきれいなアーチを描いている。
2つの大きな建造物の間を埋めるのは、キラキラと夏の太陽の光を弾く青い海。
その青の中を、船体に赤いラインの入った大きな船が白い波をたてて、ゆったりと横切っていく。
絵ハガキにでもなりそうな、完璧な景色にほうっと感嘆のため息をついて見とれる。
ふと、眩しい日差しが遮られて。
横を向くと、スマホで撮影していた女性の後ろに背の高いヒゲの男性が寄り添うように密着していた。