「……オペラハウス!」
テレビでしか見たことのなかったものを、実際に目にした時って、けっこう感動ものだ。
船とか海とか、日本でも見れるようなものじゃなく、ここ、オーストラリアでしか見られないものなら、その感動はなおさら。
数分の間……香耶は言葉もなく、遠くに見えるその姿に見入っていた。
目を覚ましたのは、あの客船から大きな汽笛の音が響いたから。
「こんなところで見てないで、近くに行けばいいよね」
そんな独り言をつぶやいて、香耶は湾の淵に沿ってカーブする広い道の先を伸び上がって眺めた。
この船がたくさん停泊している湾をぐるっと半周して、さらにその先の岬の先端まで。
道のりは全て確認できているから迷う事はないだろうけど、なかなかの距離に見える。
ここに来るまで、約30分。
ここからオペラハウスまでの距離を往復すれば、多分同じか、それ以上の時間がかかることだろう。
たまにウォーキングすることがあるくらいで、それほど体を鍛えているとは言えない身であるから、ちょっとだけ不安が胸に影を落とした。
少しだけ考えるように顎に手をやった香耶は頭を巡らせ、背後の駅舎を見上げると、帰りは電車を使うという選択肢を増やし、広い道を歩く人々の波に乗っていった。