普段、日本の街中で見る街路樹は枯れていたり、葉っぱがほとんどついていなかったり、するものも多いけれど、この町の街路樹は緑の葉をたっぷりとつけ、すぐ下にあるベンチにいい具合の日陰を作っていた。

「ステキな街……」

高層ビルが連なる都会的な街に、緑とラフな服装の人達をトッピングしただけで、街の雰囲気はこれほどに変わるものなのか……

自分の毎朝の通勤を思い出しかけて複雑な気分になると、前方から吹いた風が、香耶の鼻に懐かしい匂いを届けてきた。

「……ん?」

鼻腔を満たすのは、間違えようもない潮の香り。

海のない地域に住む香耶にとっては、人生で数回しか嗅いだことのない匂いなのに、なぜか懐かしい気持ちになるのはなぜだろう。

子供の頃、家族と一緒に初めて見た海のことを思い出しながら、香耶は風にあおられた髪を手で押さえ、道の端によって前方を眺めた。

まっすぐに続いていた道の終わりで、空の下部を横切るように走っているのは、多分、電車の線路。
日本のものと、ほとんど同じ形状をしているから、きっと間違いない。

「多分……あれがサーキュラー駅……のはず……よね?」

香耶のつぶやきに頷く人はいないけれど、きっとそう。