普段でも、食べすぎちゃった日が続いた時なんかに、いつも降りる駅の2駅くらい手前で降りて歩くことがある。

仕事用のヒールではなく、今回持ってきたスニーカーなら問題なく歩けるだろう。

ホテルの前をほとんどまっすぐ歩いて行けば、オペラハウスの近くにある湾につく。

そこからなら、あれほど大きな建物だ。

きっと、端っこでも、オペラハウスのあの特徴的な屋根か何かが見えるはず。

きっと、迷うこともないだろう。

「……あ、でも……」

パッと窓へ駆け寄ったのは、今日がおそらく、オーストラリアでも平日にあたる日だと思ったから。

いくら有名な観光地があるとはいえ、シドニーの市民全員が観光業に携わっているわけではないだろう。

朝のラッシュとか、そういうものに巻き込まれちゃ大変だと思った香耶がはめ殺しの窓から下を見下ろせば、少ないながらもスーツ姿の人が歩いているのが見えた。

とはいえ、今日は平日のはずなのに、ラフな服装の人がずいぶん多い。

駅の構内が真っ黒になるほどサラリーマンで埋め尽くされる日本とは、全く違う光景に、香耶の中で、なぜだか急に別の国に来たワクワク感が沸き起こってきた。

「それほど混んでる感じじゃないし、大丈夫かな……よーし!じゃあ、出かけますか!」