「早く結婚してお母さん安心させたいでしょ？」
”お母さん”という言葉に杏奈は思わずカップを洗っている手を止めた。
優香も手を止めた杏奈に気づき、杏奈の顔を覗き込んだ。
「お母さん、最近どうなの？」
「・・うん」
「もうずいぶんたつでしょ？」
「・・うん」
「あんたも・・・苦労ばっかり・・・」
しんみりとした優香に、杏奈は空気を変えようと再びカップを洗いながら勤めて明るい声で言った。
「そんなことないよ。自分のことのように心配してくれる親友もいるし」
優香を見る杏奈に、優香は「あんた照れるじゃない」と言いながら仕事に戻った。


杏奈は誰もいなくなった給湯室で洗ったカップをじっと見つめながら大きく深呼吸をした。