秘書課の中では中堅の杏奈。
でも会社の中ではまだまだ新人の中に入るほど、先代である現理事長と一緒に仕事をしてきた上司だらけだ。
それはきっと瑠衣も一緒だ。

まして、瑠衣は会社に今までほとんど来たことのないまま、いきなり社長として就任した。

そのことをよく思わない社員がほとんどだろうと安易に予想できる。

会議室の扉を開けるとき、杏奈は緊張した。
敵陣に乗り込むくらいの勢いだ。

この扉を開けたら、瑠衣を敵陣に放り投げるようなもの。

再会したばかりの瑠衣にもう昔のように感情移入して、心配で仕方ない自分に気づきながら、杏奈は扉を開ける前に、瑠衣の方を見て一言いわずにいられなかった。

「行ってらっしゃい」と。