「社長、お時間です。」
杏奈の声に瑠衣が手元の書類から視線をあげる。
「了解」

かなり集中して書類に目を通していた瑠衣。
昔からその集中力に、杏奈は尊敬と憧れすら感じるほどだった。

勉強ができた瑠衣。
でもそれは生まれ持った才能ではなく、彼が人並み外れた努力をしてきたからこそのたまものと杏奈は誰よりも知っている。

「行くか」
そう言って瑠衣は立ち上がり手にしていた資料を机に置き、椅子に掛けていたジャケットを羽織った。

社長に就任して初めての会議。
瑠衣が緊張していることに杏奈は気付いている。

大丈夫かと聞けばきっと瑠衣は大丈夫と答えると杏奈は知っている。
今は何を言葉にしても、瑠衣は緊張を隠そうとするに決まっている。
だから、そんな決まり切った答えが返ってくるならば、一歩下がっていつでも瑠衣が困ったときに支えられるようにと、杏奈も会議までの時間、瑠衣に頼まれた資料を探し終えると、資料をもう一度読み返し準備をした。