「婚約なんて生ぬるいから、籍入れろって言われた。」
「っ!?」
まさかの答えに杏奈はホットするよりも怖さすら感じた。

「私たちのこと、そんなに簡単に許していいの?」
「知らないよ。でも、親父は早く婚約したことを社員に広めろって言ってた。時間がもったいないって。親父もお袋の病気でいろいろ考えることがあるんだろうな」
瑠衣の言葉に杏奈は確かにそうだと納得できた。

母との時間。
母と父の時間。

人の命に限りがあることを知ったからこそ、時間を大切にしないとならないと杏奈も学んだ。

「俺は今すぐにでも婚約を社員に伝えたい。杏奈はどうだ?」
「・・・」
「杏奈?」
「・・わかりません。もう少し考えさせてください。」
答えを出せない杏奈の表情を見て、思いつめていることを悟った瑠衣は明るく返事をして再び大きな口で食事を再開した。