顔を上げた昴さんがキャップのツバを上げて宙を見上げる。そして「あーもうッ」と言って片手で顔を覆う。

そして言葉を失う私の体を両手でぎゅっと抱きしめる。真央とは違う香水の香り。その匂いが私の体全体を包み込む。

「もっとゆっくりと気持ちは伝えようと思ったのに、俺ってかっこ悪……」

こんな一面があるなんて思わなかった。私にとって見たら昴さんは完璧な人間で、照れたり焦ったり人間らしい所を見せるとは思ってもみなかったから。

「好きなんだと思うけどって言ったけど、好きだよ。
俺と付き合うのは大変だと思うけど…付き合って欲しい」

耳元で低いトーンで囁かれた言葉。
こんな私に、こんな素敵な人が告白してくれるなんて。

これで今までの恋愛の運の悪さはチャラだ。こんなチャンス滅多にないって。
私程度の女がこんな素敵な人の彼女になれるチャンス人生で恐らくたった一度きりだ。

そう考えれば今日は人生で最良の日。私は人生で最悪の日を経て、人生最良の日を掴んだんだ。頑張ってきたことを神様が見てくれていたんだよ。だからこんな素敵なご褒美を用意してくれた。


さあ素敵な恋愛よ、こんにちは。さようなら今までの最悪な恋愛達。今日の日の為に私は生きて来た。

頭の中で悪魔は甘く甘く囁く。馬鹿な私だって計算はする。昴さんの事は世界が違い過ぎて恋愛対象とは見ていなかった。けれどそこに思いかけず告白されて、こんなチャンス逃すなんて女ではない。

けれど思いとは裏腹に私は昴さんの両手を解き、体を両手で押し付けていた。