楽屋はガヤガヤとしていて過ごし方も人それぞれだったけれど、言葉では言い表せれない程の緊張感がある。浮足立ってしまっていた自分をちょっぴり反省。
皆きっと夢を抱いてこの舞台に立っていて、僅かなチャンスでも逃さぬように必死なのだろう。それは勿論豊さんだって。
「豊さんは大丈夫ですか?緊張とかしてないみたいですけど」
「えー僕これでもめちゃくちゃ緊張してるんだけど」
いつもポーカーフェイスでどちらかといえば無口なタイプ。その分感情の起伏が余りなく分かりずらい。
けれど今日の豊さんはいつもより笑顔が多い気がする。
「緊張すると頬が緩んじゃうからあんまり緊張していないように見られがちなんだけど」
「あ、分かります。寮に居る時の方が人を緊張させるピリッとした空気を放ってますね」
「それはそれでどうかなって思うけれど…。まあこんな大きな舞台で緊張しないって人の方がおかしいと思うけど。
でも緊張も舞台に出るまでかな?ステージに立った瞬間に芸人になるような瞬間がある」
「それって不思議ですね。
私一度真央の映画の撮影現場に坂上さんと一緒にいったけれど、カメラを向けられた瞬間人が変わったかのように役に入り込んでましたもん。
こういう世界にいる人って皆そういう所があるのかもしれないですね。オンとオフの切り替えって言うか…」
また真央の話になっていた。しかも無意識に、最悪だ。
忘れよう。今日は考えないようにしようと思えば思う程思い出してしまう。
そんな私の様子を知ってか知らぬか豊さんは小さく笑い、お茶を口に含んだ。