皆が芸能人に見えて浮足立ってしまっていたのかもしれない。目の前がくらくらする。目の前にいるいつも見ている筈の豊さんにまで一般人と違うオーラを感じてしまうのだから。
「いやいやここにはスタッフの人も大勢出入りしてるから」
「スカイドラゴンも出演するんだよね?」
「うん、あの人たちはメインだから個別の楽屋にいると思うよ?」
「静綺ちゃん俺ちょっと挨拶に行ってきていいかな?
結構バラエティ番組でお世話になってる人たちなんだ」
昴さんが申し訳なさそうにそう言ってくる。
「勿論です。私の事はお気になさらずに」
「そう?直ぐに戻って来るから、ごめんね?」
そう言い残して昴さんは楽屋を出て行った。
やっぱり昴さんはしっかりとしている人だ。そして超有名俳優であるが故に芸能界でも付き合いというものがあるのだろう。
考えてみればどこに行っても疲れてしまいそうな仕事だ。けれどそんな素振りを昴さんは一切見せない。
「静綺ちゃん座って。今お茶持ってきてあげるよ」
「豊さん、ありがとうございます。いやー…何か本当に緊張しちゃうッ…。昴さんと一緒に居るってだけでプレッシャーなのに
それにしても楽屋って案外狭いもんなんですね」
豊さんが2本お茶を持ってきて、テーブルへ置く。
私の挙動不審は止まらない。この楽屋に居るのは見たことのない若手のお笑い芸人ばかりだけど、もしかしたらこの中にいずれかのトップスターが生まれるかもしれない。