お笑いライブの会場。勿論豊さんはメインではないんだけど、メインで舞台に立つ芸人さんたちはテレビやCMでもよく見るような大物も多くいた。

初めて会場の裏側から入場した。関係者しか出入りは出来ない。昴さんの後ろできょろきょろと辺りを見回しながら歩く私は、ちょっと挙動不審だったかもしれない。

’楽屋’という物にも初めて入るもんで、興奮した。とはいっても売れない芸人を何組も集められたその部屋は思っているより狭かった。狭く、ごちゃごちゃしている。

数名の人が出入りしていて、スタッフか芸人かの区別もつかなかった。その椅子の並ぶ一角に豊さんは座っていた。


会場に入ってから昴さんはサングラスとマスクを取った。するとスタッフか芸人か区別もつかない人たちが一気にざわつきだした。

知り合いが数人いるのか、昴さんは立ち止まって立ち話をしたり挨拶をしたりしていた。スーパースターって言っても腰が低いのはやはり好感が持てる。そんな彼の隣に居るのは少しだけ居心地が悪かったけど。

「昴くん静綺ちゃん来てくれてありがとうねぇ」

本番前だというのに豊さんは余り緊張している雰囲気は見せずに、ふわりと笑う。

けれどビシッとスーツを着ていて、いつもは顔を隠している黒い長い髪も後ろで上げていた。

…こうやって改めて見ると、やっぱり豊さんも綺麗な顔立ちをしている。お笑い芸人というより俳優さんっていっても全然おかしくない。

「豊さんこちらこそ関係者席をわざわざ用意してくれてありがとう。」

「いえいえ全然。って静綺ちゃん緊張してる?」

「いえ、何かここにいる人たち皆芸能人って思うだけで緊張しちゃって。舞台に出る訳でもないのに」