小さな声でそう言うと、ぼんやりとした顔をして手に持たされた保冷バックを見つめた。
そして力なく笑った。

目を細めて茶色の切れ長のいつも目力のあるその瞳が、ずっと弱々しく見える。

中にひっそりと入れておいた、プレゼント用紙で包まれた台本カバーについては何も言わなかった。

「ありがとう……」

鼓膜を優しく揺らす少し掠れた声。いつもよりずっと優しい声色だった。

「静綺も今日昴と豊さんのライブに行くんだろう?楽しんで来いよ。昴は良い奴だから一緒にいて楽しいと思うし
昴も何だかんだ静綺と一緒だと楽しそうだしな。あー…あれだ。案外お似合いなんじゃないか?
それにお前もいっつも働きすぎだからたまには息抜きでもしてこい」

どうしてこういう時に限って優しい言葉を掛けるのよ。思わず泣きそうになった。普通に話せるのは嬉しい。ここ数日気まずい雰囲気のままだったから。

でも今…昴さんとの事を言われるのは辛い。いつものような意地悪な言葉を言って欲しい。

案外お似合いなんじゃないか?って言葉もキツイ。それじゃあまるで私と昴さんを応援しているみたいじゃないか。…いや応援しているのか。

岬さんが言っていた。私と昴さんがお似合いだと真央が言っていたって…。


私は昴さんが好きじゃなくて…私の好きな人はあなたなのに。でも昴さんとの事を応援されているのならば、真央にとって私って全く眼中にはないって事。

あの日のキスだってただの気まぐれだった。

泣きそうになるのを頑張って堪えて、真央へ笑顔を作る。