「別に」

「ほらほら~静綺ちゃんが真央くんが食べやすいように人参もちっちゃくしてくれてるよぉ~?」

「子供扱いすんなッ!」

坂上さんが何を言おうとそれは真央の逆鱗に触れるらしく、シュンとして縮こまってしまった。
そんな様子を見て昴さんは深いため息をつく。

オムライスを口に運びながら、呆れたような口調で言う。

「お前は子供だろう?全く何が気に食わないが知らんが人に八つ当たりをするな。」

「なッ!昴、お前にだけは言われたくねぇ!」

「何?苛々の原因は俺って訳?俺お前に何かしたか?
自分の気持ちも言わずに勝手にひとりで怒って、誰かがいつも自分を宥めてくれるって思ってるかもしれねぇけど、それって狡くない?」

怖。

優しい人が怒ると怖いって話はよく聞くけれど、いつもにこにこと笑っている昴さんが真央へ投げかける視線は氷のように冷たかった。

雰囲気の悪い食卓の中で、スプーンを持ったままの坂上さんが静止して汗をだらだら掻いている。

今にも手が出そうな感じで隣に座り合っているふたりが睨み合う。
ソファーから顔を出した瑠璃さんと豊さんもその様子をハラハラした表情で見守っている。

バンッと大きな音が響いたのは、真央がテーブルを両手で強く叩いたからだ。昴さんは平然とした様子のままポーカーフェイスを決める。

ふたりの前に座っている坂上さんは頼りなく、視線をきょろきょろ動かしてどうして良いか分からないといった感じだ。

「うるせぇ!
大体何で今更寮に戻ってきたんだよ?!
現場に近いとか口実にしか聞こえねぇんだけど?
大体お前のマンションは都内だろうが、ここと大した距離に違いはねぇだろ!」