それにしてもさっきまで忘れていたとは呑気な脳みそではある。だってこいつと一緒にいるの楽しいし、屋台で遊ぶのも楽しいし。せっかく楽しい気分になっていたのに、これから地獄のような時間を過ごす事に。
けれどしてしまった約束は破れないし、仕方がない。これから綿あめも買いに行こうと思ってたのに……。
「じゃあ姫岡さん私は行きますね」
「はっ?」
「姫岡さんは車の中ででも花火見ていて下さい」
「何故俺は行ってはいけないのだ?」
余りにも不服そうな顔をする。
いやいや…皆の前に姫岡さんが現れたら大パニックになるだろう。少し考えればわかる事だと思うけど
まさかこいつそこまでついてくるつもりだったとは……。
「とにかく私行ってきますね!じゃ!」
「おいッ。お前待て!」
何か言っていたけれど、それは無視して走り出した。ついてこられたらたまったもんじゃない。
人波を掻き分けて走り出す。花火が上がるのと同時にそれを見上げる人々の喧騒が混じって、浴衣を両手で抱えて走り抜ける。
さっきまでのドキドキとは違うドキドキ。これは緊張しているのだ。だってたっくん達と会うのは数か月ぶりだし、あんな事があって以来だから非常に顔が合わせずらい。
つーか…こんな気合入れた浴衣と髪型とメイクまでしちゃって、何か勘違いされたらどうしよう…。別に今更たっくんに会うためにお洒落をした訳じゃなくって、これは無理やり山之内さんたちが…と言っても話は通じないだろう。
あぁ…こんな細かい事まで気にしちゃって私って本当にヘタレだ。姫岡さんの事なんか言えないくらいヘタレ。