「姫岡さんッ。私かき氷が食べたいの。
あとフランクフルトとチョコバナナとりんご飴も!」
「おま…どんだけ欲張りだ。そんなんだから太るんだぞ?」
「せっかく屋台があるんだから楽しまなきゃ損でしょう?」
「フンッ。豚が牛になっても知らんぞ?」
そんな悪態をつきながらも、私の食べたい物を全部買ってくれた。
人だかりが出来る屋台にあの有名俳優が並んでいるなんて、誰も夢にも思わないんだろう。
これは私だけが知る特権。………って特権?何を、私は考えている。これじゃあまるでデートで、これじゃあ私自身も楽しんでいるみたいだ。
汗だくになりながら姫岡さんは両手いっぱいに屋台の食べ物を抱えていた。その姿に思わず笑いがこみあげる。
「似合わねぇ~!」
「な、何を!お前が買って来いって言ったんだろ?」
「ありがとうね。お、かき氷ブルーハワイなんて気が利くじゃんね。
はい、これお金。買いに行ってくれてありがとうございます」
私の出したお札、姫岡さんは決して受け取らなかった。
「いらねぇよ。そんな小銭。
それより俺あれがやりてぇ!付き合えよ!」
姫岡さんが指をさした先には射的があった。マスクとサングラス越しでは表情は余り見えなかったけれど、声で分かる。
この人も楽しんでいる、と。
「あのウサギのぬいぐるみが欲しいッ」
「任せろ」
「うわ!一発すごッ」
「昔役でこういうのはやったことがある。それに俺に出来ない事は無い」