東京の外れの小さな街の地元民しか来ないような小さな花火大会であっても、それなりに人はいる。

車を駐車させて、所狭しと立ち並ぶ屋台を見つけて思わず目が輝いてしまった。

隣には怪しすぎるサングラスとマスクを装着した姫岡さん。…綺麗な顔をして浴衣もとっても似合っていたのに残念ではある。芸能人の宿命か…。けれどどんなに顔を隠しても、隠し切れぬオーラがあるのはすごいと感心してしまう。

「屋台に行きたいのか?」

サングラスをしているから、いつものように姫岡さんの表情は余り見えない。けれど顔に「行きたい」という感情が出過ぎてしまったか。

「いや、別に…。約束の時間までもう少しありますから、車で時間を潰しましょう。こんな人だかりに出て姫岡さんの事がバレてしまったら大変」

そこまで言いかけて、姫岡さんは私の腕を強引に引っ張って、車から飛び降りた。

「お前って何でそんな自分の感情を我慢しようとすんの?!」

「ちょ、本当にここは危険ですッ。」

「うるさいな、黙れ。
せっかく花火大会に来たんだ。楽しまないと損だろう」

そう言って私の手を引いたまま人混みの中にどんどんと入って行く。
強引で自分勝手だけど、実は優しい人。とっくに知っていたけれど…。

私……楽しんじゃって本当にいいのだろうか?この人一般人じゃないんだよ?超人気有名俳優なんだよ?

けれど風を切って走り出していく姫岡さんの横顔を見て、この屋台の楽しそうな雰囲気に呑まれて…そんな事はどうでもいいかとほんの少し思った。

姫岡さんがそう言ってくれたから、素直に楽しんでいいんだって思えた。