「車、かっこいいですね」
何故か無口になってしまった姫岡さんとふたりきり。それはそれで気まずいのでどうでもいい話題を投げかけてみる。
するとちらりとこちらへ視線を向けて、嬉しそうに口元を上げた。
「まあな。この俺が乗っている車がかっこ悪い訳ないだろう。
まあ、俺が乗れば軽でさえ絵になってしまうから恐ろしいよな」
「普通…そういう事自分で言う?」
「何か言ったか?!」
「別に何も言ってないけど!」
いつも通りに戻ってくれて何故か安心した。
ムカつくけど、さっきのような気まずい雰囲気よりはずっとマシだ。
「それにしても…本当に大丈夫ですか?女の子とふたりきりで出かけてしまって」
「女の子だぁ?お前みたいな色気のない女、俺の中で女にカウントされてないから安心しろ」
けたけた笑いながらさも楽しそうに言った。
ムッ。やっぱりこういう奴だよ。
「そうですけど…。一応有名人なんだから危機管理つーもんをもっと持って」
「何だよお前、マネージャーみたいな事言うな。まあ、坂上さんもあんまりそういう事言わねぇ人だけど。
それに俺はマスコミに好き勝手書かれる事には慣れてんだよ。
ネットの記事とか漁ったらすげー書きようだぜ?
女遊びが激しいとか、毎夜六本木に繰り出して合コン三昧とか」
「え?!そうなの?」
「お前ネットニュースとか見ねぇの?」
「全く見ない…」
グリュッグエンターテイメントでバイトをするようになって、姫岡さんや瑠璃さんたちの基本的情報は調べたけれど、そういったゴシップには全然目が向かなかった。