私なんだけど、私じゃないみたいな顔。きっちりとメイクをすると私ってこんな顔になるんだ。
そして姫岡さんがくれた深い赤の浴衣。それとお揃いの深紅の髪飾りが、アップにした髪に花が咲いたように揺れた。
入り口で待ち構えていた姫岡さんは壁に寄りかかり、両腕を組んで今日も相変わらず偉そう。
やだな…。きっと悪口言われるに決まってるよ。いつもみたいに意地悪な笑いを浮かべて「せっかく俺が用意した浴衣がお前に着られる事によって台無しだ」とか言いそう…。
もじもじしながら姫岡さんの前に行くと、大きく目を見開いて浴衣姿を凝視する。
「おお、静綺よく似合ってんじゃねぇか」
彼より先に警備員のたっさんが声を上げた。
たっさんはほぼ警備室から出て来ない。寧ろここで暮らしている。けど、朝と夜のご飯を届けているうちに、この強面の警備員にもすっかりと慣れてしまった。
たっさんは私を’静綺’と呼び捨てにして、まるで娘のように接してくれる。そして褒められて悪い気はしないんだ。
「たっさん、ありがとう」
「お前って綺麗な女の子だったんだなー…。いっつもスッピンでエプロン姿のまま汗だくで走り回ってるから分からなかった」
「もぉ、言い過ぎですってば!」
隣にいた姫岡さんにちらりと視線を移すと、何故かふいっと目を逸らされた。
え?!あなたが用意してくれた浴衣ですよね?何も言ってくれないって…。それはそれで悲しいんですけど。
「まぁ…悪くねぇんじゃないか…」
ぼそりと小さな声で言った言葉は余りにも意外だった。