10万を安物と言ってしまえるなんて、ますます芸能人とは住む世界が違うわ。あーあー…私のバイト代浴衣でぶっ飛んじゃうじゃん。

「着付け出来ないし…」

「はぁー?女の癖に浴衣の着付けも出来ないとか。
そうだ!山之内さんに着させてもらえよッ。髪とかメイクとかも瑠璃さんが得意だからやって貰えば?」

「でも…」

「俺は浴衣の着付け位出来るぞ?やってやろうか?」

姫岡さんは自分で言ってハッとして顔を真っ赤にさせる。

「別にお前の裸とか見たくねーから!触りたいなんて思ってないから!」

勝手にひとりで暴走してひとりで喋って…。
これは、着なかったら一波乱がありそうだ。わざわざ買いに行ってくれたみたいだし…この人なりの気遣いだし…。

「山之内さんに着せてもらいます!」

慌てて部屋から出て行く。ドキドキが止まらなかった。思わず心臓がバグってしまったかと思った。

姫岡さんは約束を覚えてくれていた。別に花火大会に行きたかった訳ではない。しおり達に会うのなんて勘弁だったし、そんなの傷つくだけだ。

けれど姫岡さんがこんな美しい浴衣を用意してくれていたのは…正直嬉しかったし、何で?という気持ちになった。

変な人だよ。

意地悪な事を言って見たり、突然優しくなってみたり…私の為にこんな素敵な浴衣を一式用意してくれたり。

益々彼の事が分からなくなる。

ぴたりと足を止め、一瞬だけ振り返る。浴衣を握っていた両手が熱い……。これはきっと夏の暑さのせいだ。まさか…私が姫岡さんを意識している?