姫岡さんは私の方へ紙袋を差し出した。
何故かとても嬉しそうな顔をして、私の様子を伺っている。
手渡された紙袋の中から出てきた物は、白いたとう紙に包まれた…鮮やかな赤の花柄の浴衣だった。
それに帯も帯留めも髪飾りも。一式全てが大切そうに包装されている。
「これは……?」
「見りゃ分かるだろ。馬鹿なのか?お前は。
それが着物に見えるか?」
「いや、浴衣ってのは見れば分かりますけど…どうしたんですか?」
その疑問に、彼の方が眼を丸くして不思議そうな顔をした。
「だって花火大会に行くんだろう?浴衣を買ってきたんだが?
ほら俺も浴衣すっごく似合うだろう?!」
紺色の浴衣を着てくるりとその場で一周回る。…いや確かに似合ってますよ。かっこいいし、何か色っぽいし…いつもの姫岡さん以上に美しいです。
けれど目の前の赤い浴衣の意味は分からない。こんな高級そうな…。
「これまさか私にですか?」
「そうだけど?」
「え?何でわざわざ?買ってきたんですか?」
「だって花火大会だから浴衣だろう?」
普通の洋服で着ている人も沢山いると思うけど…。
まさか姫岡さん、わざわざ私の為に買って来てくれたの?その思いを汲み取ったか、顔を真っ赤にさせていつもの調子で「別にお前の為とかじゃねぇから」と悪態をつく。
「わ、私お金払います」
「いいよ。そんなん安物だし」
「そういうわけには……幾らですか?」
「知らん。カードで払ったからよく見てない。全部で10万くらいじゃね?」