~心愛side~


全てを知ったって、仕方ない。

何も変わらない。

何も出来ない。

私の今置かれている状況は、とても話せるようなものじゃない。

パパは、知らなくても良いことを知ろうとしてる。


真「知らなくても良いことなんて1つもない。パパは、心愛のことが知りたくて仕方ない。ずっと一緒に暮らしたくて···離れたくもないのに離れ離れになっちゃって···小さなこと1つでも知りたいよ。パパが1番大事なのは···」


「そんな泣きそうな顔しないで??イケメンが台無しだよ···」


パパがそんな顔する必要はない。


「かっこ良くいないと、彼女に振られちゃうよ??」


真「·····」


修「心愛、ちょっとこっち来い。」


「何??」


修「良いから····」


修ちゃんの前に立つと、急に下まぶたを擦られた。


「!!!」


修「さっきから気になって······化粧で隠してるからわかんないと思ったのか知らねーけど、医者には誤魔化し効かねーぞ····心愛。」


俊「···隈···酷いな····」


「修ちゃんっ··」


真「眠れないのか??本当どうしてるんだよ向こうで···ちゃんと学校行ってるのか??」


学校····


真「飯だって····食わしてもらってるのか??」


ごはん···


真「ママはちゃんとやってるのか??」


ママ····


何もかも····


私にはない。


私には、何もない。


真「!!···心愛···」


俊「泣くなよ心愛っ···」


俊ちゃんがティッシュを私の目蓋に当てた。


「····泣いてる??···誰が??」


幸「····心愛が泣いてるんだよ??」


私が泣いてる??

そっと目に触れると、確かに涙が出てきていた。


「·····本当だ···はは····泣いてる。」


涙なんてあの日、とっくに渇れたと思ってたのに。

渇れ果てるまで泣いて泣いて···

私の心は死んだはずだったのに。

涙出るんだ···


真「···心愛···」


「ふふ···ハァー···」


ダメダメじゃん。

弱いな私って···


3年前····


ママが再婚して、虐待が更に激しさを増した。

ママだけじゃなくて男も私を殴ったから。

それだけなら堪えられた。

男は····

それから1年して···

私をレイプした。

あの日、私の全ての感情は、消えてなくなったように思う。

それがママにバレ、何故か私が悪いと追い出した。

13歳の時だ。

それから···

ある男達に助けられてここまで来た。

何も知られないよう、パパ達が傷付かないように、隠してきた。

ただ穏やかに、幸せになってほしい。

大切な4人をママとあの男から守りたい。

その一心だった。

隙を見せれば、ママはパパを陥れようとする。

だから傍で見守ってきたけど、それも限界かな····


仕方ないか····


「···」


私は立ち上がって荷物を持った。

そして玄関に向かった。


真「心愛待って!!話しようよ。」


「パパ??」


真「心愛···」


「言わなきゃいけないことがあるんだけどね??」


真「···うん···」


「··········私は···パパのことが大好きだし、皆のことも大好き····でも····それだけじゃ何ともならないこともあるの。」


真「何言って····」


「ただ穏やかに、幸せに····それだけが私の願い···」


ピリリリリ


真「···谷中ちゃんからだ···」


谷中徹さん

パパ達のマネージャーさんだ。


「じゃあ···」


真「ちょっと待って····」


「電話出なきゃ。」


真「そうなんだけど···」


「····」


黒いサラサラの肩より少し上の短い髪の毛は、今日はおでこを出してピンで留めてある。

鼻筋が綺麗に通っていて、二重の瞳、血色の良い唇と、パーツは揃えられている。

とても30代とは思えないその姿は、私の自慢であって、大好きなパパ。

誰にも言えないことだけど、皆、私の自慢の存在だった。

これが最後なのかな····


真「もしもし??ごめん今取り込んでて···え??心愛なら····あっ心愛!!」


私は外に出てエレベーターを待った。