『……はじめまして。この度、Flower blackのQueenになりました、篠崎 蘭です』



静かに聞かれる方が怖い。


まだブーイングされたほうがマシに思えてきた……



『この学園のトップに立つ、桜夜さんを私が桃李さん、菊磨さんと共に支えます。

……あと私は庶民です。本来ならばこの場所に立つべき者ではありません』


「蘭……それは言わなくてもいいのに……」



私が"庶民"と言った瞬間、周りはまたざわつきだす。





「天下のFlower blackのQueenが庶民!?」


「納得いかないわ!!」



次々とくるブーイングに私はグッと拳を握る。



「蘭ちゃん……!」


「桃李、様子を見よう」



そして私を助けようと講壇にでようとした桃李さんを桜夜くんは止めた。


ブーイングなんて来て当たり前だ。


むしろさっきまで来てほしい、だなんて思ってたんだ。


絶対にここの生徒を納得させてみせる。



『……納得いかないのは重々承知です。Flower blackのQueenになった以上、みなさんに認めてもらうように精進するので見守っててください』


「「……」」



私がペコッと深くお辞儀をし、講壇から去るとまた辺りは静かになった。


……こんな挨拶でよかったのかな。






「……桜夜くん」



後ろの椅子に座る桜夜くんを見ると、桜夜くんは優しい顔で私を見つめていた。



「……よく頑張ったね。堂々としててカッコよかった」


「ありがとう……」



そしてすれ違いざまに私にこっそり耳打ちをしてまた講壇へとあがっていった。


うまく挨拶できたようでよかった……


私がFlower blackのQueenと認められるためには守られてばかりじゃダメだということ。


"流星"のことも"昴"のこともこの学園のことも、私自身できることはしなきゃ。



____……



そして放課後になり、帰る準備をする頃私は桜夜くんに"お母さんのお見舞いへ行く"と伝え、病院に送ってもらった。


「……お母さん?」


病室に入ると、そこにはお母さんと楽しそうに話す見慣れた姿の幼馴染が座っていた。






「……光(ひかる)くん?」


「蘭! 久しぶり」


「久しぶり……こっちの病棟に戻ってきたの?」


「うん、少し回復したから」


「そっか……」



光くんは私と同い年で小学生の頃からお母さんの病院に入院している幼馴染。


最初、お母さんと大部屋の同じ部屋で同い年の私たちはすぐに仲良くなった。





この半年、集中治療室に移動していたのに戻ってきたんだ……よかった。



「さすが若いから、戻ってきてよかったわ」


「また戻らないようにしなきゃね」



そう言うお母さんと光くんはすごく仲がいい。


お母さんは光くんが病室に遊びに来ているときはすごく嬉しそうだった。


光くんは重い病気なのにいつも会う度明るくて私も尊敬する。



「ていうか蘭。その制服華ノ蔵じゃん。転校したの?」


「よく気づいたね」






まあ……目立つかこの制服。



「分かるよ、有名なセレブ校じゃん。菫(すみれ)さん、わざわざそんな学校に転校させたの?お金は?」


「違うわよ、蘭をここに通わせてくれる人が現れたみたいで……」


「へえ……」



桜夜くんのことはお母さんに電話で伝えた。


お母さんに華ノ蔵に通うことを話した時、お母さんは泣いて喜んでくれた。


けれど光くんはなんだか疑い深い目をした。



「光くん?」


「……いや、羨ましいなぁって。俺も学校に通いたいよ」


「……そうだよね」



見た目は元気なのに……ずっと病院に居るのは辛いんだろうな。





「……ていうか俺が気になるのは……菫さん、蘭とちょっと話してきていい?」


「?、いいわよ」


「ありがとう。蘭、ちょっと来て」


「え? うん……」



光くんはそう言って私の腕を引っ張り、病室をでて談話室へ連れていった。


なんだろう……



「その制服ってFlower blackだという証の制服だよね? 蘭、Flower blackに入ってるの?」


「え……」



光くん、Flower blackを知っているの……?






「いや、Flower blackに入ってるからどうとかいうのじゃないから……ただ知りたいだけ」



そういうことか……



「……入ってるよ。華ノ蔵の学費を払ってくれてるのもFlower blackの人」


「へえ……優しいんだねその人」



光くんはニコッと笑ってそう言う。



「うん、すごく優しい。私を助けてくれたから……」


「そっか……助けてくれたって?」


「それは……」






光くんには言っていない。


"流星"の姫だったことも。暴力をふるわれていたことも。


その時、光くんは集中治療室にいたから……



「……ごめん。聞きすぎた。でもFlower blackに入るっていうことは裏社会に足をつけるってことだからね。気をつけて、蘭」


「……うん……」



光くんはそう言って私の頭にポンっと手を置いてから先に行ってしまった。


心配……してくれてるってことだよね。


でも光くんはずっと病院にいるはずなのになんでFlower blackのことを知っているんだろう?


それだけが少し疑問に感じた。