君のために、歌を歌う
君のために、空を飛ぶ
君のために、夢を見る
世界を変えてくれた君に、僕のすべてを言葉にして贈ろう
悲しい夏ぐれも
切ない夕月夜も
寂しい霜夜も
君がひとりで泣かないように

すぐ帰るつもりだったから、電気をつけていない夕暮れの部室は、ひどく暗かった。

彼の紡いだ文字を、その想いをなぞるように、指先でそっと撫でる。

彼の言葉はいつも短いけれど、どうしてこうも、私の心を揺さぶるのだろう。

心の昂りを感じていると、父が亡くなった日に振り仰いだ病院の景色が、ふいに脳裏を過った。

ロータリーから見上げた病院の窓。

光の病室から見た、樫の木の生い茂る中庭――。

「…………」

胸が、どうしようもなくざわついた。

――ガチャッ

ドアの開く音がして、私は慌てて背後を振り返る。

部室の入口には、桜人が立っていた。

桜人は理科室の片付け担当だったから、空き教室の片付け担当だった私は、この数時間会っていない。