「川島部長、まだいるかな……」

旧校舎の中にある部室棟を、文芸部の部室目指してひとりで歩く。

新校舎の方から、楽しげな笑い声やはしゃぐ声が、遠く聞こえた。

対照的にこちらは閑散としていて、薄暗い廊下に、上靴の音がやたら響いている。

部室は開いてたけど、無人だった。

長テーブルの上に、今年の冊子が数冊山積みになっている。

「出来てる……」

新緑の色に似た、若草色の冊子をひとつ手に取った。

今年の年号の下には、『県立T高校文芸部』と印字されている。

出来立ての文集からは、新しい紙の匂いがした。

初々しい香りと手触りに、気持ちが昂る。

この中に自分の作品も入っているのだと思うと、よりいっそう心が弾んだ。

パラリと、指先を切ってしまいそうなほど真新しい紙のページを捲った。

まずは、川島部長のミステリー小説だ。

「なっが……」