「真菜に気づかれないところで、見てる感じかな。ほら、私、小瀬川くんより後ろの席だからよく見えたの。真菜は、ずっと小瀬川くんより前の席だったでしょ? 真菜のこと見てて、真菜が振り返ったら、小瀬川くん窓の方向いちゃうの」

たしかに、彼は見るたびに窓の外を眺めているイメージだった。

どうしよう。

勝手に、胸が高鳴って、居ても立っても居られない気持ちになってしまう。

そんな私の様子を見て、ふっと夏葉が笑顔を浮かべた。

「真菜は好きなの? 小瀬川くんのこと」

そろりと目を上げ、夏葉を見る。

すっかり赤く染まってしまった顔では、もう隠しようがない。

「……多分、好きなんだと思う」

「多分?」

「分からないけど、私がつらいときに、桜人はいつも気づいてくれて……」

桜人はいつも、見えないところから、私を支えてくれた。

「臆病な私を、叱ってくれて……」

逃げるなよ、といった厳しい彼の口調。

今にして思えば、あれほど優しくて思いやりのある言葉を、私は知らない。

まるで、陽だまりのような人だ。

天気のいい日には煌めくような輝きを、日射しの穏やかな日には柔らかな光を。

そして曇りの日も雨の日も、雲のずっと上から、途切れることなく私を包み込んでくれる。

「でも私は何かをしてもらってばかりで、彼の役に立ててないことが……ときどき悲しくなる」

時折ふっと見せる悲しげな表情や、言葉を濁す感じ。

桜人は、私との間に築いた境界線を解いてはくれない。

彼に近づけば近づくほど、私はそれをはっきりと感じてしまう。

「誰かのために何かをしたいって気持ちは、“好き”ってことだよ」

夏葉が、私を諭すように言った。

「応援してるから。ふたりのこと」

「ありがとう……」

夏葉の優しさに泣きそうになりながら、私は深く頷いた。