「じゃあまたね〜」

「今日の夜、LINEするわ〜」

放課後の教室、チャイムが鳴ってしばらくするとみんな教室から出て行く。高校二年生の林莉奈（はやしりな）は、趣味である編み物をしながらため息をつく。逃げ出したいが、逃げられない。

「待ったか？」

男性特有の低い声に、びくりと莉奈は肩を震わせる。顔を上げれば染められた髪に、ピアスのついた耳の制服を着崩した男子生徒がいた。その顔は無表情で莉奈はさらに恐怖を感じた。

「う、ううん！待ってないよ！」

莉奈は慌ててニコリと笑顔を作る。すると、男子生徒は「ならよかった。行くぞ」と言い教室を出て行く。莉奈も慌ててかばんの中に作りかけの編み物をしまい、怖いなと思いながらも男子生徒と歩き出した。

莉奈とこの男子生徒は世の中でいう彼氏と彼女という関係だ。しかし、莉奈はこの男子生徒のことを怖いと思い、少女漫画のようなドキドキするシーンというのは全く存在しない。あるとすれば、恐怖のドキドキである。