何も知らずに診察室に入ってきたなつは、とても元気にみえた。

込み入った話になるので、施設の方には席を外してもらい、なつだけが診察室にはいる。

「おはよう、なつ。」

「おはよーひろくん。あ、瀬川せんせーもいる!」

「うん。おはよう、なつちゃん。」

検査ぶりとはいえ、数日ぶりに会えたのが嬉しいのか、なつはクスクス笑っている。

あーあ、言いたくないな。

このまま、笑顔のなつがいるなら言わなくてもいいんじゃないか なんて思ってしまう。

なつの笑顔を壊すのは、とても心苦しかった。

「ねえ、なつ、今日はなんで病院に来たか知ってる?」

「しってるよー。えっとね、けんさのけっか」

「うん。正解。」

俺は、パソコンを操作して検査結果のデータとMRIの写真を出す。

もう一度目を通して、やっぱり間違いじゃないかって思いたいけど現実は変わらない。

「あのね、なつ。これ見える?」

モニターを指さすと、なつは大きく頷いた。

「これね、この前の検査の結果なんだ。こっちは、なつの頭のお写真ね。」

「…ふーん」

なつは退屈そうに足をプラプラさせる。

「……ここ、頭の中に白い部分あるよね。」

「うん」

「…これね、なつの頭の中に出来ちゃった悪いコブなんだ。」

乾ききった喉から頑張ってその言葉を絞り出した。

それを聞いて、なつは理解したのかしていないのか、また「ふーん」と言って足をプラプラさせる。

「これがあるとね、上手く歩けなくなっちゃったり、体が動かなくなっちゃうことがあるんだ。」

「……まえと、おんなじやつ?」

「うん。そうだよ。」

「…ふーん」

前に入院した時と同じやつだと気付いているってことは、理解できたのかな…

相変わらず、なつの表情は変わらないけど。

「この悪いやつさ、早くやっつけなきゃいけないんだ。やっつけるためには、また病院にしばらくお泊まりしなきゃいけない。」

「……でも、なつげんきだよ。」

「今は元気でも、このままだと今よりもっと具合悪くなっちゃう。」

なつは、表情にこそ出さないものの、口ぶりからして大方察して、その上で嫌な気持ちを婉曲的に示したのかもしれない。

「前もさ、しばらく頑張って悪いやつやっつけたでしょ?だからさ、また一緒に頑張らないかな?」

「…………」

なつは、ジッとMRI画像を見つめる。

「…わるいやつ、ないもん。」

うん、そうだよね……

そう思いたいよね…

語尾が少し震えている。

怖いよね…

「悪いやつはあるよ。白いの見えるでしょ。」

「なつ、だいじょうぶだもん」

「今は大丈夫でも、後から苦しくなっちゃうんだよ。」

なつは、必死にこの現実を拒否する。

でも、これはどうしても受け入れさせなきゃ行けないんだ。

俺も心が苦しいけど、受け入れてもらわねばならない。

気付けば、なつは大きなふたつの瞳に沢山の涙を溜め込んでいた。