「ねぇ、ほんとにシャワー浴びなくてへーき?風邪ひかない?」


あまやどりにとたどり着いた場所は、葉月くんの家。お父さんとお母さんが営むケーキ屋さんだったらしい。


雨がやむまでを凌げればいいからと、中に入ることを拒んだ私に、iPhoneの雨雲レーダーをみせながら、

“あと1時間くらいは降り続けそうだから入ろ” と誘った葉月くん。


普段はお客さんが使っているはずのいくつかの席を、どこでも適当に使ってと案内しながら、空調をつけくれたのは、ほんの数分前だ。



“とりあえず紅茶、あまくない方ね”


その時に渡されたバスタオルと、一緒に聞いてくれた好み。

“あまいのとあまくないのどっちかいい?” の質問の意図がわかり切らず、なんとなくで答えていたけど。

コトッとやさしく置かれたマグカップから、大好きなダージリンの香りがして、飲み物のことだったんだと知る。



「バスタオルも紅茶も、あったかいから大丈夫。ありがと」


おしゃれなロゴ調のマグカップに口をつけながら答えると、わかりやすく、葉月くんは不服そうな顔をした。



「じゃあせめて、服着替えて。髪も乾かして」


なんで急にムスッとしたかなんてわからないけど、はい、と有無をいわさず渡された白Tのまぶしさに、思わず笑いがこみ上げる。


「葉月くん、お母さんみたい!」

「…そこは男にしといてよ」


やさしい力で強引に背中を押す手は、間違いなくおせっかい。

なのに19歳の男の人なんだと思ったら、また笑えてきた。