「お、美味しい。こんなに柔らかいお肉なんて、食べたことないです」

 そもそもエイミの村では、肉を口にする機会など年に一度あるかないかという程度だった。穀物を薄く焼いたパンと豆類やくず野菜のスープ。それが食卓の定番だった。

「トマス爺の料理の腕は、ノービルドいちだからね。烏ちゃんが故郷の村で嫁になんて行ってたら、一生食べることは叶わなかった味だろうね」

 なぜかトマス爺ではなくアルが、誇らしげに鼻を高くした。

「……たしかに。そう考えると、私だけがこんなに美味しいものを食べて、村のみんなに申し訳ないですね」

 殺される運命。村のみんなはそう信じていたから、エイミを送ったのだ。こんな贅沢が許されると知っていたら、他にも立候補したい娘はたくさんいたはずだ。

 エイミの心中を察したのか、アルが言った。

「村のみんなは烏ちゃんのおかげで、自分達は残虐公爵の魔の手から逃れられたと思ってるんだから、win-winじゃないか。なにを気にすることがある?」
「それはそうですけど……」
「いい子ぶりっこは鬱陶しいよ」

 アルは冷たく言い放つ。彼は厳しいが、本質を鋭く見抜いていると思う。

 エイミは黒髪のせいで、幼いころから人に好かれることがなかった。そのせいか、「せめてこれ以上は嫌われないように」と必要以上に人の顔色を窺ってしまう。
 少しでも好かれたくて、必死でいい子の振りをする。でも、アルのように賢い人間にはすぐに見抜かれてしまうのだ。村でも同じだった。