村にいた頃とは比べものにならないほど恵まれた環境での毎日だったが、エイミの心は日に日にどんよりと沈んでいった。
 
 なにより辛いのは、自分の存在がジークの生活を邪魔しているのではないかと思うことだった。たとえば、エイミが三つ子と遊んでいるとき、ジークは決して部屋には入ってこない。ジークと三つ子が一緒に過ごせるはずの時間を、自分が奪っているかと思うとたまらない気持ちになる。

 エイミは悩んだ末にひとつの決意をした。そして、勇気を出してジークに話しかけた。

「ジ、ジーク様! 大切なお話があるのですが、よろしいでしょうか?」

 彼はあの鋭い目つきでエイミをひとにらみすると、「こちらへ」とだけ言ってエイミを自分の私室へと案内した。三つ子達とジークに初めて会った部屋だ。
 ジークはエイミに椅子をすすめると、自分は正面に座った。だが、それでもエイミとは目を合わせようとしない。

(やっぱり……)

 エイミはがっくりと落ち込んでしまった。自分でも馬鹿だと思うが、ほんの少しだけ『気のせいだった』という可能性にかけていたのだ。
 
「話とはなんだ?」
「は、はい。このお仕事を、村の他の娘に譲ろうかと思っているのですが……」

 エイミでない他の娘なら、ジークも気分よく過ごせるだろう。それに、ここでの待遇は破格のものだから、代わりにくる娘もきっと喜ぶはずだ。
 唯一の問題は、両親にひどく怒られるであろうことだがそれは仕方ない。最悪の場合は別の場所に奉公に行けばよいだろう。

「やはりか……」

 ジークは低い声でつぶやいた。

「はい。私がいては、不快でしょうから」
「俺と過ごすのは、不快だよな」

 ふたりの声が重なった。「ん?」と、ふたり同時に相手の顔を確認する。ジークもエイミも、互いに心底驚いたという顔をしている。