二泊目は予定通り、視察先の街の宿に泊まった。田舎の街なので、そんなに豪華ではないが清潔で居心地のよい宿だった。

 ジークとふたりきりでエイミはウキウキなのだが、彼はエイミの村を出た時からずっと気落ちしていた。
 今も部屋の隅で、身体を小さくしている。

「本当にすまなかった。エイミの母君にあのような態度を取ってしまって……領主の権力を振りかざすなど、俺は最低の男だ」

 エイミはジークの隣にちょこんと座りこみ、彼の顔をのぞきこんだ。

「……私はあの時、ジーク様が怒ってくれたこと、嬉しかったですよ。どんなことがあっても、ジーク様は私の味方になってくれるんだって……すごくすごく安心しました」
「そんなのは当たり前だ! 俺は死ぬまで、いやたとえ死んだって、未来永劫エイミの味方だぞ」

 ジークの壮大な宣言にエイミはくすりと笑ってしまった。こんな素敵な人が旦那様だなんて……自分の幸運に驚くばかりだ。

「里帰り、できてよかったです。私、ずっと過去と向き合えていなかったんです。ジーク様や城のみんなと過ごす毎日が幸せであればあるほど……過去が苦しく感じられて、目を背けてしまいたくて」

 愛されて、幸せになればなるほど……愛されていなかったかつての自分を認めるのが怖くなっていった。無意識に蓋をしてしまっていた。
 過去のエイミはそれが悲しかったのかも知れない。だから、夢に出てきては泣いていたのかも知れない。