エイミは今度は母親に向き直った。

「お母さん。産んで育ててくれたこと、私もとっても感謝してる。それに、ジーク様と出会えたのもお母さんに嫌われてたからこそだもの。本当に本当にありがとう!」

 さきほどのジークの言葉で気がついたのだ。エイミがこんな黒髪で、暗い性格で、両親からも愛されない嫌われ者だったからこそ、ジークと出会うことができたのだ。
 この村で過ごした過去は、エイミにとって必要なものだった。
 
「エ、エイミ?」
「おかげで、私とっても幸せになれました。愛する旦那様に悲しい顔をさせたくないから、もう里帰りはしないつもりだけど、いつまでも元気で長生きしてね!」

 この村にいた頃は、このひとに愛されたいと、抱きしめて欲しいと渇望していた。だけど、そんな偽りの愛はもう必要なかった。

 ジークが溢れるほどの愛で包んでくれるから。新しい家族が、ハットオル家のみんながいてくれるから。

(過去があったから、今こうして幸せになれた。なにも悩むことなんてない。私って本当に幸せ者だわ!)

 心の奥深くに刺さっていた小さな棘が、するりと抜けていくのをエイミは感じていた。