(ジーク様……)

 自分を思ってくれる彼の気持ちが痛いほどに伝わってくる。
 母親に愛されていないことなんて、なんでもないことのように思えた。

(私にはジーク様がいるじゃない。それだけで十分すぎるほどに幸せだわ)

 ジークの思いを無下にせぬよう、エイミも今夜のことは忘れてしまおうと決めた。なにも聞かなかったことにするのだ。が、その瞬間、ついうっかりくしゃみをしてしまった。

「くしゅ」

 そんなに大きな声は出していないが、ふたりには気づかれてしまった。

「エイミ!?」

 ジークは心配そうにエイミを見やる。母親は気まずそうにエイミから視線をそらした。

「ごめんなさい、ジーク様。その……聞いてしまいました」
「エイミ……」

 ジークは苦しげに顔を歪めた。エイミはそんな彼ににっこりと微笑んでみせる。

「大丈夫です、心配しないでください! 自分でもびっくりするくらい傷ついてなんていないんです」