娘の欠点を嬉々としてあげつらう母親に、とうとうジークがきれた。
 
 「黙れ。それ以上喋るつもりなら、舌を切り落とすぞ」

 凍りつくような冷たい眼差しと、地底から響くような低い声。残虐公爵の呼び名にふさわしい彼の姿を、エイミは初めて見た。

 母親はひぃっと小さな悲鳴をあげて、しりもちをついた。どうやら、腰を抜かしたようだ。
 それでも、ジークは容赦なく続けた。

「領主の妻を侮辱するのが、どういうことかわからぬなら教えてやろう。首を斬られても当然の愚行だ。その舌ひとつですむなら、むしろ喜ぶべきことだ」
「あ……あぁ……」

 ジークの冷ややかな笑みを前に、母親はがくがくと震えている。

 ジークは小さく息を吐いた。

「……エイミを産み育ててくれたこと、それに妹達ではなくエイミを俺の元によこしてくれたこと。それには、心から感謝している。その礼として、今夜のことは聞かなかったことする。だが、二度は許さない。頼むから……あんな言葉をエイミに聞かせるな」

 切実な思いを絞り出すように、ジークは訴えた。