「そんなこと言わずに、よく考えてみてくださいよ。だって、あの子よりずっと」
「考えるも考えないもない。俺の妻はエイミだけだ」

 ジークは少し声を荒げた。それでも母親は諦めなかった。媚を含んだような声で、彼をさとそうとする。

「約束します。エイミより妹達のほうがずっと領主様のお役に立てますわ。エイミよりずっと綺麗だし、賢いし。
ほら、あの子は暗くて気味が悪いでしょう? 黒髪のせいだけじゃないんですよ、性格も昔からああなんです」

 そこまで聞けば、嫌でもわかってしまう。母親はエイミの代わりにミアとアイリーンをジークの妻にとすすめているのだ。
 妹達はエイミよりずっと美人だ。性格も素直でかわいらしい。母親がエイミより妹達を大切に思っているのは、わかっていたことだ。彼女にとって、本当に自慢の娘なのはエイミではなく妹達なのだ。

(わかってた。さっき抱きしめてくれたのだって、私がかわいいからじゃない。公爵夫人になったからだ)

 その証拠に、抱きしめたその瞬間すら、彼女はエイミの顔を見ようとはしなかった。気味の悪い黒髪と黒い瞳からは目を背けたままだったのだ。
 エイミが公爵夫人になれるのなら、妹達だってなれるはず。彼女はそう考えたのだろう。