「俺の娘が公爵夫人……そんなことって……」

 父親は事態がのみこめず、いまだ呆然としている。彼は昔から気が小さかった。エイミはちらりと母親の様子をうかがう。驚きと興奮からか、彼女はぷるぷると身体を震わせていた。

「す、すごいじゃない! エイミってば」

 感極まったようにそう叫ぶと、母親はエイミを強く抱きしめた。

「公爵夫人よ、侯爵夫人! 村長の妹なんて目じゃないくらいの玉の輿! あぁ、エイミは自慢の娘だわ」

 自慢の娘なんて言われるのも初めてなら、母親に抱きしめられたことも記憶にある限り初めてのことだった。

「今夜は泊まっていくんでしょう?」
「あっ…ううん、宿は視察先の街のほうで用意されてて」
「え~久しぶりなんだから、泊まっていきなさいよ。エイミも領主様も!」

 エイミの村には宿などないから、宿泊は考えていなかったのだが……。

「ごめんなさい。私の家族が強引に引き止めてしまって……しかもこんな狭い家に……」
「いや。歓迎してもらえて、嬉しい。俺のほうこそ、でかい図体で申し訳ないな」

 結局、エイミの実家にふたり揃って泊まることになった。エイミの実家は村の中でも貧しいほうで、ジークのような身分の人間が過ごす環境ではないのだが、彼は快く受け入れてくれた。

「ジーク様がここにいるなんて……すごく不思議な感じです」
「エイミはこの家で育ったんだな」

 家族はもう眠ってしまっている。ふたりは小声で、夜更けまでお喋りを続けていた。