「これは、これは! ご領主様御自らが、こんな辺鄙な村まで足を運んでくださるなんて……こ、光栄でございます」

 ジークを前にした村長は、地面に額をこすりつけんばかりの勢いで頭を下げた。 村のみんなにはいつも偉そうにしていた彼のこんな姿を見るのは初めてで、エイミは驚いてしまった。

「あの、村長さん。お久しぶりです。エイミです。覚えていますか?」

 エイミは村長の前にかがみこむと、ぺこりと頭を下げた。すると村長は大袈裟な笑顔を浮かべて、エイミの手を握った。

「エイミ様! お久しぶりでございます。相変わらず、お美しくていらっしゃる」

(エイミ様? ございます? う、美しい??)

 かつてはエイミを村の厄介者扱いしていた彼の、あまりの変わりようにエイミは言葉も出なかった。
 ちらりと隣に立つジークを見やる。

 彼はただそこに立っているだけでも威厳と気品があった。この田舎の村では、それが特に際立つように感じられる。

(改めて……やっぱりジーク様ってすごい人だったのね)

 ジークは気さくで優しいから時々忘れてしまいそうになるが、彼は本来エイミにとって雲の上の人だったのだ。彼の妻になるなんて、玉の輿を通り越して億が一くらいの奇跡なのだ。


「ほらな。嘘じゃないだろ。エイミは公爵夫人になったんだよ」

 村長の後ろからゾーイがひょっこりと顔をのぞかせた。