言われたことが理解できなくて。
彼の顔を見る。
澄ました顔。
昔からそうだった。
彼も、皆とワイワイするようなタイプじゃなくて、その澄ました顔で周りを見てた。
何事にも、興味無いような顔で。
そんな彼が、私なんかを好きと言っている。
嘘を言うようなタイプでもないことは分かっている。つもり。
だからこそ、余計に彼のその“好き”という言葉が、頭から離れなくて。



「…その顔、やばいでしょ」



そう言った松本くんは片方の手で口元を押さえている。
その顔。どの顔?
とはいえ、今私の顔は真っ赤なんだろう。
熱を帯びてくのが自分でもわかる。
熱い。
でも、いかんいかん。
冷静になれ。
自分がどんな人間か、分かってるでしょ。



「ご、ごめん…」



自分は、そんな誰かに好きになってもらうような資格ない。
好きになってもらって付き合っても、結局捨てられるだけ。
“今までのように”。



「私を好きになっちゃ、ダメだよ」
「……」



意味深なこと言ったかな。
松本くんはじっと私の顔を見て、黙ったまま。



「そんなの、俺が決めるし」
「え…?」



ずっと下を向いていた私は、彼にそう言われ、ゆっくりと顔を上げる。
恐る恐る。



「好きになる相手なんて、俺が決めることだし」




え、ええええぇぇ。
ダメって言ってるのに。
私は別に構わない。結局、捨てられても。
もう傷つくなんて慣れてるし。
それより、松本くんの時間が無駄になるだけ。
私なんかを好きになっても、きっと今までの人達と一緒。
最後には…。



─────「お前に割いた時間、返してくれよ!」



─────「あーあ、お前といた時間、無駄だったわ」




結局最後には、そんなふうに言われておしまい。
相手の時間を無駄にしてしまうなら、だったら始めなきゃいい。
付き合う、なんて関係。
私なんか、“普通の人”とは付き合えない。



「本当に、私なんかと付き合っても、時間の無駄」
「…それって、どういうこと」



そんなふうに聞かれても、言えっこない。
私は、黙ったまま。



「…じゃあ、俺が振り向かす」
「え…」



とんでもないことを相手が言いそうで、顔が引きつる。



「俺じゃなきゃダメって思ってもらえるまで、俺、頑張るわ」