美樹は、「あーあ。来年こそは触れたいなぁ。抱きしめてほしいなぁ。」と心の中で呟いた。
言わなかったのは、申し訳なさを増やしてしまうのではないかと考えたからだった。

潰さないように、そっと壊れ物を扱うようにクモに触れると、クモはすっと透けて通り抜けた。

「え……っ、もう?」

透けて通り抜けるのは、もうすぐ彼がいなくなってしまう合図だ。

神様…。
もう少し長く会わせてほしかったです……。

美樹は欲張りかもしれないと思いながら、そう思わずにはいられなかった。

クモが『ご、め、ん。』と綴る。

そんなクモに美樹が切なげに笑いかける。
そして、毎年恒例の行事のように、「平気だよ。」と美樹は返すのだ。

愛しい人。
事故で亡くなってしまったなんて、信じられないくらい、実感が湧かない。

——だって、彼は私の目の前にいるでしょ?

そう思うのに、美樹は毎年彼が消えた後は泣いてしまうのだ。

クモがほぼ何も見えなくなった時。

「来年も、また来るね。」

美樹のその言葉がやけに耳に響いて、クモは嬉しく思った。
また来年も来てくれる。そう思うと、クモの心の中に希望が湧くのだ。

「ああ。」

そう、声を出せたのは、天国に着いてしまったからだろう。