クモが、『い、い、の、か?』と尋ねてみれば、美樹は優しく笑うだけ。
それを「イエス」の意味だと捉えることができるのは、きっとこのクモだけだろう。
それは、美樹のことをよく知っているからだ。

「私にはあんたしかいないからね。大丈夫。1人じゃない。だって毎年、こうして会ってるじゃない。」

クモは『さ、き、に、い、っ、て、ご、め、ん』と綴る。

「本当だよ。『ずっと一緒にいよう』って言ってた男が…中学1年から高校2年まで付き合ってた彼氏が、結婚の約束して、しかも私とのデートのあとに事故で死んだとか…未だに信じられないよ。」

「私への未送信メッセージ読んで泣いちゃったんだからね」と美樹が付け足すと、クモはまた申し訳ないと思った。

美樹が「冗談だよ、ごめんね」と言うが、クモはまた申し訳ないと心の中で呟いただけだった。

クモが死ぬ前日、『毎日会いたいなぁ。』と美樹が小さく呟いていたのを聞き逃さながったクモは、死ぬ前のデートで『結婚しよう』と申し出たのだ。
高校を卒業して、クモは18歳、美樹は16歳にならないと結婚はできないので婚約だけした。
その翌日に、クモは死んでしまったのだ。