「・・・じゃあ、そろそろ後輩思いのエナさんのリクエストに答えよっか」

周りの音が一瞬。途絶えた。

空にしたお皿を重ねて端に寄せ、二人の前にはコースターを敷いた飲みかけのグラス。筒井君は最初からアルコールを頼んでいなかった。

「糸子さんの話、聞くよ。そのつもりで来たし」

静かな声だった。私がこの手に想いを断ち切るハサミを握っているのも構わないような。なにも諦めていないような。

ひとつ呼吸を置いた。

「幹さんのマンションに引っ越して、会社を辞めることにしたの・・・」

見えないハサミの指穴に引っかけた指に力を籠める。

「だからごめんなさい、・・・筒井君の気持ちには応えられない。幹さんのそばにいてあげたいから」

切った。自分から。

痛かった。
千切れて。
・・・胸が。
指も。