建物の切れ間に覗く空はすっかり、紺とグレーが雑ざった色に塗り替わっていた。

車が、モールの出口に向かい立体駐車場のスロープを(くだ)り始める前から。幹さんは待ちかねたように私を捕まえ深いキスを貪った。外からの視線を遮るスモークガラスが後部シートを密室に仕立てあげ、羞恥も置き去りにされる。

耳の後ろ、首筋、うなじ。強く吸われてまた痕を残された。今だってボトルネックじゃなければ隠せもしない。

「・・・幹さん、もう・・・」

これ以上増やされたら、月曜日に社服用のブラウスを着た時どうなるのかを考えるのが怖くなりそうで。

「・・・まだだ」

不敵な命令。身を捩って逃がれようとしても、腰に巻き付いた腕はびくともしない。

「嫌ならずっと俺のマンションにいろ」

・・・なんだか話の雲行きが怪しくなった。思わず幹さんを凝視してしまうと、人が悪そうに上から目が細められる。

「アパートを引き払ってあの部屋に住めばいい。お前の面倒は俺が責任を持つ」

「でも・・・会社が」

「いけません、若」

息を呑んだ、躊躇なく遮った山脇さんに。一度も口を挟んだことがなかったのに、刺すように鋭い声だった。

「俺に指図か?・・・いい度胸だ」

瞬間。走る密室内の空気が裂けた。ような。

わたしを離さないまま、底知れない冷気を放ちながら薄く口角を上げた幹さんを初めて・・・怖いと思った。